優しい魔法

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 優しい手が、青紫の髪を一房(すく)う。 「落ち着いてからでいいから、顔を上げて。今度は僕が“魔法”を使うから……リラに、見てほしい」 「うん……うん。見たい。エミリオ君の“魔法”」  まだ鼻を啜りながら、リラがおずおずと顔を上げる。瞳を震わせたまま。  目が合った途端、エミリオは目蓋を下ろした。右目に手を被せ、すぐにそれをスライドさせる。リラへと差し出されたその手の中には、(はね)に深く煌めく青を閉じ込めた、一匹の蝶がいた。 「わぁぁぁぁっ! 蝶々(ちょーちょ)だっ。エミリオ様の、綺麗(きれー)蝶々(ちょーちょー)っ!」  真っ先に飛び付いたのはロイズだった。興奮する幼い手が捕まえようとするものの、蝶は軽やかに逃げていく。それでも「まてまてーっ」と無邪気に追いかける竜を、リラは瞬きしながら見つめていた。 「え……手品?」 「言ったでしょ。“魔法”だって。あの子は普段、ここにいる」  エミリオが指で示したのは、己の右目。ロイヤルブルーを浮かべていたはずのそれは、何故か左目と同じアッシュグレーに色を変えている。 「じゃああの子は……エミリオ君の分身? 瞳に飼ってるの?」 「……そんなところ」  宿主からロイヤルブルーを奪い取った蝶が、赤いケープを結ぶ、リラの胸元のリボンに止まった。勢い余ってそこへ飛び込みそうになったロイズを、エミリオの両手が後ろから引き寄せる。
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