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青ざめたリラが、それでもキッと強気な表情を作り、両手を広げてエミリオ達の前に出る。
「……見逃してください。私の命は、生涯たった一人のお嬢様に捧げると決めているんです。他の人にはあげられません」
「やーだね。香血もこんな美少年も、これ逃したら一生巡り逢えねー代物だもん。君達がおとなしく捕まってくれるんならこれ以上手荒なマネはしねーけど……そんな気さらさらないよなぁ? できればあんまり傷はつけたくねぇけど、悪く思うなよ」
不穏な笑みを消さない男は、再びリラにライフルを向ける。
緊迫感しかないその二人の間に、あまりにも柔らかに、それは割り込んだ。
「え……?」
あまりにも呑気な様に、男も、リラも、目を奪われる。花の冠から離れたロイヤルブルーの蝶が、リラではなく、男に向かってひらひらと飛んだ。
「あ? 何だこいつっ……」
「あ……そこにいたら危ないよっ……」
遠ざけようとしたリラの手をすり抜けて、蝶は無駄に自分を振り払う男に何度でもつきまとう。細すぎる胴と足で、何やらムズムズと奇妙な動きを繰り返して。
しかし、更に近く、男に近づくものがいた。
エミリオとロイズが冷静なら、すぐにリラをその闖入者から遠ざけた。しかし、ロイズは痛みに泣きじゃくり、エミリオは従者の涙を憂う余り、見えなかった。生地をすり抜け、アリスブルーのリュックから飛び出してくる、不穏な赤を纏う蝶々が。
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