麗しき刺客

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 弄ぶように、誘うように。やがて青い蝶が諦めるようにリラの元へ戻っても、赤紫の蝶は男を諦めようとしない。 「ったく、しつけーなっ……!」  男に残酷な裁きが下されたのは、透けるように煌めく翅が、ライフルの銃口を掠めた瞬間。 「……っうわぁぁぁぁぁぁっ!!」 「……え……?」  ざわざわと肌を撫でてくる不気味な匂いに、リラは時を止めた。喉も足も、頭も、何も動かない。  蝶が、口を開いた。自らの胴を真ん中から割って、細い体を巨大な口へと変える。そこから覗く幾つもの細長い牙が、男にかぶりついた。  血飛沫が上がる寸前で、ローズピンクの無垢な瞳は優しい両手に塞がれる。 「ごめん……目を瞑ってて。僕が手を引くから、信じて付いてきて」 「う、うん……」  ぎゅっと目蓋を閉じたリラは、エミリオの手に導かれるまま足を走らせた。男から、耳をつんざく悲鳴から、錆びていく鉄の匂いから、その不穏の全てをもたらす(もの)から、逃げるために。 「……貴方は、戻っておいで」  花冠の傍で待機していたロイヤルブルーに、エミリオが指を伸ばす。  可憐な花と戯れていた蝶は、吸い寄せられるかの如く、エミリオの指をすり抜け右目へと戻った。銀に近い美しい無彩色を、再び高貴な青が彩る。
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