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「エミリオ様……ごめんなさい。僕のせーで……リラに、怖いもの見せちゃって……」
「ロイズのせいじゃない。僕も……付いてきてるなんて気付かなかったから」
涙を止めきれていないロイズは、足早に先を行く主の肩で、己への後悔を募らせた。
主に握られた少女の手は震えている。うつむきがちに目を瞑ったままのリラの顔には、恐怖以外の何も浮かんでいない。
不覚にも、自分達は助けられてしまった。視覚と聴覚を、赤紫の蝶と共有するあの人に。
あの虫の食欲を刺激してしまったら、終わり。
輝く赤い紫を翅に持つ蝶は、胴体を開き、巨大な口を露わにし、不届き者を貪る。胃袋を満たすまで、情け容赦など一切ない。
人一人分の食事を終えた追手が再び追いかけてきていないか、ロイズはちらりと振り返る。
杞憂だった。腹を満たした麗しい刺客は、真の主の元へ戻るのか、ひらひらと遠ざかっていく。一滴、赤い涎を落として。
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