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空への招待
逃げた先には、多くの賑わいと、刺激と安穏が入り交じった匂い。レンガの建物。見晴らしのいい景色。人の群れ。
草木に埋もれるガーデンのような場所から、再び人通りのある観光エリアに戻ってきていた。
頭の痛みもだいぶ和らぎ、ロイズは最後の涙を拭く。何度も両手を濡らした涙は、やっと止まった。
ここには、何もない。乱暴なライフルも、生臭い匂いも。暴食が過ぎる、艶麗なルビーレッドの化身も。
「……大丈夫……じゃないか。でも人の通りが多いところの方が、さっきいたところよりは……」
「ごめんなさい……」
人を避け、エミリオが道の端で足を止めると、その腕に、ライラックの頭がもたれかかった。顔を隠すように。
細い声と花びらが、散る。エミリオが握ったままの小さな手は、まだ恐怖に揺らされていた。
「ごめんなさい……あの人、私のこと狙ってたみたい……そのせいでエミリオ君達まで巻き込んで、ロイズ君も痛い目に……」
「謝らないで。リラは何も悪くないから」
「そーだよっ! リラじゃないもんっ。僕のこと殴ったアイツが全部悪いんだもんっ!!」
主の御心に翼を広げて加勢するロイズは、花冠を潰さないようにリラの頭に豊満な腹を乗せ、短い腕できゅっと抱きしめる。怖がらせたくないという想いより、離れていかないように。まだ主から、離れていかないように。
遥か遠くで、高らかに鳥が鳴いた。
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