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「わぁ! すっげーっ!! ドラゴンだ! ドラゴンって本当にいるんだーっ!!」
「ふわふわ飛んでる! カッコいーいっ!!」
突如街中に姿を現した大きな竜が、通りがかる者の好奇心を刺激しないはずがなかった。小さな子ども達を最前列に、わらわらと群れができてしまう。
「ごめん。ロイズ。人に見られることはわかってたんだけど……」
「いーんですよぅ! それより、エミリオ様、リラ、どーぞっ!」
主達へと無邪気に差し出した手のひら。
エミリオがリラを誘い、共に従者の手の中に座る。靴の裏が触れないよう気を遣ってくれながら。
「それじゃー、いっきますよーうっ!」
一番大切なもの達を手に、ロイズは大きな翼をゆっくり広げる。風の圧力が主を傷つけないよう、穏やかな速度で。
地上から離れすぎない高さでののんびりコース。最も背が高い城や居住エリアは避け、店が並ぶ大通りや運河に沿う。ゆっくりと旋回するだけで、リラの頭から花びらが溢れた。
「この街、上から見たらこんななんだっ……思ってたよりも人がいる……それに、見たことないものもいっぱいっ……!」
「さっき色んなお店を回った時もそんなこと言ってなかったっけ。リラはこの街に住んでるわけじゃないんだ」
「住んでるよ。でも……この街に来てからは、一度も部屋から出たことがなかった。だからね、この街にはどんな花が咲いて、どんな鳥が鳴いて、どんな風が吹くのか……知らなかったの」
「そう。箱入りお嬢様なんだね」
「ううん。お嬢様は私を拾ってくれた人の方……あ! 見て見て、虹!」
リラが指す、遥か遠い山には、うっすらと虹がかかっていた。雲に圧されそうな儚い輪。瞬く間に薄れ、消えてゆく、その引き際さえ美しい。
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