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すぐ傍で、刹那、冬に染められたかのような突風が駆け抜ける。絡め合ったままの二つの手は、一層強く、互いへと力を込めた。
「ねぇ、エミリオ君達は? エミリオ君とロイズ君もこの街に住んでるの? 二人のお家もここから見えるかなぁ……」
「見えない。僕達はこの街には住んでいないから。僕の実家があるから、今日は里帰りをしに出てきただけ。いつもはもっと……“街”なんて呼べないような、何もない静かなところで暮らしてる」
「そうなんだ……うん。エミリオ君とロイズ君はそんな感じかも。じゃあきっとここからは見えないね」
ひたすら穏やかに渡し合う言葉。派手に笑うことはなくても、二つの声は暗くない。
ゴンドラが行き交う運河は空を真似て真っ青に澄み、時計塔は荘厳な鐘を歌わせる。陽気な風は、花びらや薄羽の虫と追いかけっこ。
ロイズの黄玉色の瞳は、ふと、遥か遠くの緑を捉えた。何もかも受け入れてくれそうな長閑な色に、ささやかな欲が生まれる。誰の目にも触れない場所まで、主を連れて逃げてしまえたらいいのに、と。
叶わないことを知りながら上下させた翼の先に、何かが触れた。
「……あ! エミリオ様! リラ! さっきの子達ですよっ。お花食べてた子達!」
澄み切った空の中。柔らかなライムイエローの鳥の群れが、歌うように鳴く。
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