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砂糖菓子の音色
人目が集中しやすい大通りを避け、けれども道沿いの柵から運河を見渡せる、それなりに拓けた場所へと降り立った。
先にエミリオとリラを地上に降ろしたロイズは、光に包まれ、街をうろつく時のいつものサイズへと戻っていく。
泡沫の旅を終えた両翼に少しばかり疲れを感じたロイズは、主の肩に胴を乗せぶら下がった。無礼と言えなくもないその頭と胴体の間に、エミリオは優しく赤いスカーフを巻き直す。
「エミリオ様……お空、楽しかったですか?」
「うん。ロイズのお陰ですごく楽しかった。ありがとう」
やわやわと頭を撫でてくれる主の手は偉大だ。触れられていない翼から、疲れがとろりと溶け落ちていくかのよう。
「私も、とっても楽しかった! ロイズ君。綺麗な景色、いっぱい見せてくれてありがとう」
「えへへぇ、よかったぁっ」
労るようにロイズの背中を撫でるリラ。この様子だと、不穏な緋色の光景は薄まったらしい。
しかし、郊外とはいえ街に降り立った大きな竜が目撃されなかったはずもなく、しばらくは目を輝かせた子ども達に追いかけ回される羽目になった。森の中の洋館から出てきた時は、歩いて街まで着ける人気のない草原に降りるため、こんな見知らぬ子ども達相手の鬼ごっこは初めてだった。
こんな状況でも、二人と一匹で過ぎて行く街中は、やはり悪くない。空と同じくらい、頬をよぎる風が気持ちいい。
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