二人の老人

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 四方を高い壁で囲まれた殺風景な大部屋。小さな窓から漏れる僅かな明かりに照らされ、老若男女問わず多くの人間が身を寄り添い合い息を潜めていた。  中には壁に向かい大声を張り上げる者や、頭を抱え泣き叫ぶ者もいる。  そしてとある老人はひとり壁に背を預け、仄かな光が溢れる手元をジッと見つめていた。 「お、よく持ち込めましたな」  返事をする間もなくサングラスをかけた男が老人の隣に並び、老人は視線を携帯ゲーム機から横に移した。若作りをしているが同年代だろうと老人は瞬時に睨んだ。 「ご家族の方は一緒じゃないんですかい?」 「私は天涯孤独の身です」 「ならば同類ですな」  サングラスの男は恐らく作り物であろう白い歯をニッと見せた。 「いやはや長生きはするもんじゃて。まさか人生のクライマックスにこんな映画みたいな体験ができるとは思ってもいなかったわい」 「映画ならまだいい。大抵の映画は決まってハッピーエンドで終わるが、私らの結末にそんな保証は無い。言うなればこれはゲーム。選択次第でグッドにもバッドにもなりうるマルチエンディング式のゲームってとこですね」 「それも一度でも(ライフ)を失えば即ゲームオーバー。リトライもコンテニューもできん激鬼ムズゲーってとこですな」 「ええ。恐らくは“ベイオハザ-ドⅫ”のエクストラステージをナイフ縛りで一発ランクSクリアするくらいの難易度だと思われますね」 「ウム。“どどどどんぱち”のデスレベルモードをノーミスで三周クリアするのと同じくらいかもしれんな」  二人は同時に微笑した。
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