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二十歳の誕生日の記念に酒を1人で飲んでいた時、ふと、小さい頃の友達を思い出した。
その友達の名前は「ぐちゃ君」という。
紫色のぶよぶよとした体に、黒曜石のような大きな目、どこまでも大きくなる口には歯は生えていない。
手足はなかったため、床をぶよぶよと体全体の形を変えながら引きずって移動する。
なぜぐちゃ君と友達だったのかというと、ぐちゃ君は僕の嫌いなものをどんどん食べてくれたからだ。
ピーマンが苦くて嫌いだと言ったら、ピーマンをぱくりっ。
キャラクターの服が欲しいのに花柄の服を貰って落ち込んだら、花柄の服をぱくりっ。
掃除機の音が嫌いで耳をふさいでいたら、掃除機もぱくりっ。
おもちゃを壊されて泣いていたら、おもちゃを壊したいじめっこをぱくりっ。
行儀がなってないと僕が怒られていると、口うるさいおばさんをぱくりっ。
僕は嫌いなものを食べてくれるぐちゃ君が大好きだった。
ぐちゃ君は食べる度に少しずつ大きくなっていった。
そんなある日、僕はぐちゃ君に君はいつ大きくなるのかと聞かれた。
ぐちゃ君はしゃべれなかったが、僕はぐちゃ君がいつも何を言っているのかわかる。
「二十歳で大人って聞いたから、二十歳になったらかな」
ぐちゃ君は体全体を屈めるようにして、うんうんと頷いた。
その次の日、ぐちゃ君は僕の前からいなくなった。
僕はぐちゃ君がいなくなってしばらくは泣いていたが、だんだん時が経つにつれ、ぐちゃ君のことを忘れていった。
実際、さっき思い出すまで忘れていたのだ。
「ぐちゃ君ってなんだったのだろう……」
今更ながら、疑問に思う。
少なくも自分の知っている生物にぐちゃ君に該当するものはいなかった。
幻というには、ぐちゃ君はしっかり存在していたように思える。
まぁ、考えても仕方ないかと、新しい酒を取るために立った時だった。
目の前に僕よりも大きい紫色のぶよぶよしたものが立っていた。
「ぐちゃ君……」
あの頃より大きくなっていたが、それは紛れもなくぐちゃ君だった。
黒曜石のような瞳が僕をじっと見る。
僕は嬉しさのあまりぐちゃ君を抱き締めようと両手を広げた。
すると、ぐちゃ君の口が大きく開く。
そして、僕を包み込むように覆い被さってきた。
そして…………ぱくりっ。
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