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少女とおじさん
「お願いだから入れてよー! あたし、全然怪しいもんじゃないし!」
帝都からだいぶ離れた片田舎。人口は少なく自然に溢れ、民家がぽつぽつ点在する程度。その中で、ひときわ目立つのがこの紡績工場である。
その入り口では、少女が守衛と押し問答していた。
帝都からやってきた若者だろう。タンクトップにホットパンツという露出が多い格好は都会の流行で、この牧歌的な風景とはミスマッチだった。髪も短くまとめられており、本人のアクティブさもあって、15歳ぐらいの少女にしか見えなかった。
守衛は、押せ押せの姿勢で挑んでくる彼女にたじたじだった。
「分かった分かった。百歩譲って、君が怪しくないとしよう。だけど、許可のない人間は入れられない規則なんだよ」
「人間でなけりゃいいってこと?」
「そういう意味じゃなくって……」
守衛はため息をはく。
もう一時間ぐらい、ああ言えばこう言うの状態で、話は一向に進んでいなかったのだ。無論、 魔物だったら中に入れるわけがない。
守衛にはもう一人、背の高い男がいたが、人ごとのように同僚が困っているのを面白そうに眺めていた。
「ちょっといいか?」
「あ、ああ……」
別の訪問者が来ていたのに気づかなかった。
カーキ色の服を着た大柄の男が大きな荷物を背負って立っている。筋肉質で強面ということもあり、40歳ぐらいに見えるが、もっと若いかもしれない。存在感があり、そばに立たれると圧倒されてしまう。
男は紙切れをノッポの守衛に渡す。
「許可状だ」
守衛は大男に萎縮しながらも、紙切れに目を通す。そして「確かに」と言って返した。
「お、お待ちください!」
男が通過しようとすると、守衛は強く引き留めた。
「武器はここに置いていってください」
男の大きなバックパックには、ライフルが1丁マウントされていた。腰には拳銃がささっているのも見える。
「携帯免許は持っているが?」
「規則ですから」
守衛は負けじと自慢の背を伸ばして言うので、男は「分かった」と荷物をその場に降ろした。
かつて「城壁を出れば魔物に当たる」と言われるほど治安が悪かった時代の名残で、自衛の武器を携帯する習慣がある。
昔は誰もが銃を持ち歩いていたが、魔物の数が減ったこともあり、今では剣すら所有していない人も増えた。
男は門の脇に置かれた机の上に、武器を並べていく。
ライフルと拳銃、その弾倉。弾には魔力が込められていて、魔力を爆発させることで鉛玉を発射させる。魔力を使う分、通常の武器より威力が高く、現代の主力武器になっている。弾によって魔力量が異なり、対魔物か対人間かで使い分ける。
ナイフ。かつては刃渡りの長い剣が主流だったが、ライフルが普及してからは、小型のナイフに取って代わられた。
そして手榴弾。魔力の爆発で破裂させ、金属片をまき散らし、周囲の者を負傷させる。高威力であるため、一般市民には所有が許可されていない。
「あんた、戦争でもやる気!?」
もう一人の守衛と押し問答していた少女が、すかさずツッコミを入れる。
男の武器は護身用という範囲を遙かに超え、戦争や魔物討伐に赴く兵士レベルであった。
きっと男は傭兵だ。
国家が常に軍隊を維持するのはお金がかかるため、国家防衛という主任務から外れた仕事を一般市民に委託することがある。
傭兵は市民には許されない過剰な装備を持ち歩けるが、その分、過酷な仕事を振られるという意味でもある。
「なんだこいつは?」
「気にしないでください、ただのクレーマーです」
男の問いに、背の高い守衛が苦笑いで答える。
「誰がクレーマーよ! 工場に興味があるから見せて、って言ってるだけでしょ!」
「こんな奴ほっといて、ささっ、奥へどうぞ」
守衛は少女を無視して、男を奥の建物へと案内する。
「なんであいつはよくて、あたしはダメなのよおおお!」
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