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妻を見る父親の視線がにわかに色づいた時、娘が『ぱぱ!あのこほしい!』と声を上げた。
「ん~?どれ?」
「ぴんくのぺんぎんさん!」
なんと、彼女のお眼鏡にかなったのはこの俺──寸胴で顔と腹の辺りは白、頭や体の側面、背中はパステルピンク、つぶらな瞳にぽてっとした黄色いくちばし、小さ過ぎる翼と足を持つペンギンのぬいぐるみ───だった。ターゲットになるのは初めてのことで、喜びで全身が震える・・・実際には微動たりともしないのだが。
「う~ん、あれはとれないなぁ。ゲーセンみたいに店員もいないから動かしてもらうこともできないし。」
「ぱぱならとれるよ!ぱぱはなんでもできて、せかいいちかっこいいもん!」
その言葉とキラキラした眼差しに父親はノックアウトされた。
「ようし、パパに任せろ。」
「え?やるの?」
驚く母親に父親は茶羽織を脱いで渡し、100円玉を投入した。『ティロン♪』と投入音がし、音楽が流れ始めるとぬいぐるみ達にわずかに緊張が走った。
とりやすいように置かれているわけではないからとれるわけがない。でももしかしたら、ということも有り得る。ターゲットとされている俺ではなく他のぬいぐるみが引っ掛かることだってあるのだ。
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