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追懐5
どっと疲れが押し寄せ、リビングのソファーに脚ごと放り出し天井を眺めた。
一緒に寝てといえば卓馬は隣で眠ってくれるだろう。一晩中、腕枕をしてくれるだろう。
キスしてと言えばしてくれるだろう。唇が触れ合うだけの優しいキスなら。
でも、それだけ。
「こんな日は隣で一緒に寝て欲しいんだけどな」
弱気なため息に乗せて出た独り言は、夜のニュース番組のアナウンサーの声に飲み込まれて消えていった。
しばらくして風呂上がりだろう卓馬に声をかけられた気がしたが、卓馬はつけっぱなしだったテレビをオフにして戻って行った。
いつものように触れず誘わず、オヤスミのキスなんて幻。私の妄想だったか。
あれ、キスってどうやるんだっけ。忘れてしまった。最後にセックスしたのはいつだっただろう。それも忘れた。
寂しいという感傷に浸るより先に、とろとろと睡魔という微睡に再び溺れていく。
一禾と卓馬は世間で言うところのセックスレス夫婦だ。どのくらいの期間を経てそう呼ぶのか正確には知らないが、もう5年くらい互いの身体に触れていない。
結婚して10年以上子供ができないのも当然だと思って諦めている。特に子供を強く望んでいるわけではないので、通院してまで子作りに励もうとは思っていない。そもそも年1回の検診でも引っ掛かったこともないのに不妊治療をする理由がないのだ。
結婚して最初の2、3年は、早く孫の顔がみたいという卓馬の母親から、ドラマにありがちな子供を急かすような台詞を幾度となく吐かれた。顔を合わせる度に言っていたが2年を過ぎる頃にはパタリとやんだ。
逆に気を遣わせたかと心苦しかったがそれも時間と一緒に流れていった。5年を過ぎると痺れを切らして子供の話しかしなくなった。
所詮、義理の母親とはそんなものだ。
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