学園祭

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目に見えてシュンとしてしまった柊さん 何となく沈黙が流れる なぜか先日振られた時のことを思い出してしまう 『全然やらせてくれない』彼の言葉もよみがえってくる シャリっと音がして柊さんがかき氷をすくって 「はい」と私の口の前に差し出してくる 突然の行動に少し驚くけど 「はい あーん 溶けちゃうよ」 と柊さんに言われて慌てて口を開く パクっ! 冷たい かき氷はどのシロップも実は同じ味って聞く そんなどうでもいい雑学が頭をよぎる でも 男の人からこんなふうにたべさせてもらったかき氷は なんだか特別な味がする…気がする 柊さんが今度はハンカチを私のほほにあてる それで気付く あれ?私泣いてる でも悲しいわけじゃない 自分が情けないのかも 好きになったらすぐアタックして 彼の色に染まって 尽くして それが幸せだって思ってたのに 彼らがくれた『好き』はきっと私の体をすり抜けて “私のものにはならない気持ち”だったんだ 愛されてるって勘違いして その人に夢中になってたけど簡単な理由でティッシュ破くより簡単にちぎれて散ってしまう関係 それがわかってしまって 悲しいんだ 「ミウちゃん ぎゅってしていい?」 「え?」あ そうだった私今柊さんと一緒だったんだ 「ごめん ギュってしたい」 「な なんですか急に!」突然の宣言に泣いてたことも忘れて焦ってしまう 私そんなに簡単に堕ちないですよ! すると予想外の言葉が返ってきた 「その涙だって誰にも見せたくない 俺のものにしたい」 そういってふわっと包まれる これは 夢でしょうか? ふみ 麻莉 これが愛されるってこと? 柊さんの香りと体温で視界も胸もいっぱいになり頭がグルグルして 思考力がなくなっていく このまま包まれていたい 気づけば 元カレのことも泣いてたこともどうでもよくなった 「あ ありがとうございます」 少しの間柊さんに抱きしめられた後 そう告げると すっと離れていく柊さん 少し寂しく感じてしまう  「もう泣き止んだ?」 「はい ごめんなさい ちょっとやなこと思い出しちゃって」 そういって 笑って見せた 少し溶けたかき氷をストローでガシガシした 「ミウちゃんのも少しちょうだい」 え?まださっきのつづきだったの? 少し戸惑ってしまう だって 今までの短時間で 私はかなり柊さんに 気持ち持ってかれてる 私ってば またいつもの癖で簡単に好きになっちゃう だってちゃんと見たらすごくイケメンだし  目の前の柊さんは『あーん』の口になってる ていうかその唇からあふれる色気も半端ない きっとあのカフェには柊さんに会いに来てる女の子も 多いんだろうな とかのんきに考えてしまう 「あの はい どうぞ」 とカップごとかき氷を柊さんに差し出して 「どうぞ」と念を押して言う 「はは ずいぶんきらわれてるのかな?」 「い いえそんな 嫌ってないです!」 柊さんの言葉に思わず慌ててしまう  「…た ただそういうのちょっと慣れてなくて 恥ずかしいっていうか」 「そっか」そう言って私の氷を自分ですくって口に入れる 「あぁ メロンもよかったなぁ」 何でもないように言って 「ありがと」とカップを返してくる もしかして 嫌われちゃったかな?食べさせてあげるくらいなんでもないことなのに なんかもったいぶってるように見えちゃったかな 急に不安になる 「あ あのごめんなさい あーんしてあげられなくて」 とっさにそう言った私に柊さんは一瞬ぽかんとして すぐに笑顔になった 「好きな人に無理強いしてまでさせることじゃないし」 私の頭をポンポンして 「まぁ あーんしてもらったらきっと数十倍おいしいんだろうけど  まだチャンスはいくらでもあるし ね 」 と笑った 「ちゃんす?」 「そ 俺ミウちゃんとずっと一緒にいたいと思うから 長い付き合いのうちには いつか俺にしか見せないミウちゃんをたくさん見ることできると思うし」 ずっと? 「こうしてる間にも なんでだろう 俺どんどんミウちゃんのこと好きになってく気がする」 私のほうこそ 私を見つめる瞳に吸い込まれそうだ 「いや なんか勘違いじゃないですかね?」 そうだ きっときれいな女の人ばっかりと付き合ってきた柊さんにとって 私みたいな平凡な女は珍しいのかも そう思わないと ほんとに簡単に好きになってしまいそうなほど 柊さんはだ 「勘違いじゃないよ ミウちゃん」じっと見つめられたら本気でやばい 「あぁ えっと ま 前向きに検討させて下さい」 何となく業務的にテンプレ的な返事を絞り出す 「よかった じゃ とりあえず 今からデートしてくれる?」と聞いてくる 「"前向きに"考えてくれるんでしょ?だったらとりあえず ね?」 私って押しに弱かったんだな 握られた柊さんの手を振りほどくこともできずに憧れの「学祭デート」をすることになる
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