彼氏の誕生日

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高原の風は少し肌寒い 持ってきたストールを首に巻く 「気持ちいい」 「俺晴れ男だから」 そういう柊さんの向こう側に きれいな青空が広がっている チケットを買って 外の展示品を見て回る  芸術的過ぎてわからないものから 共感できるものまで 広すぎる敷地にたくさんの展示品がある  こういうデートをするのは始めてかも  何より私は 『柊さんと歩く』ということに心地よさを感じている もう多分 柊さんより私のほうが恋におちている気がする 「館内の展示も少し見てみようか?」 少し寒いなって思ったタイミングで声をかけてくれる ほんとに優しい 美術館なんて一人でゆっくり来るものだって思ってたけど 柊さんとは感性が合うのかもしれない それか柊さんが私に合わせてくれてるのか 私のペースで展示を見ることができた 「そろそろおなかすかない?」 柊さんに聞かれて そういえばもういい時間かもと思う 柊さんと一緒だと 時間がたつのも早い気がする  持ち込みがオッケーだと聞いていたので  私の一押しのパン屋さんで買ってきたサンドイッチと テラスのわきにある売店のコーヒーでランチをする テラスは日差しも柔らかく 暖かくて 周りにも 子供連れの人やご年配の方がぞれぞれに 食事やお茶を楽しんでる 「ミウちゃんのおすすめのパン屋さんおいしいね」 「柊さんは何でもおいしそうに食べてくれるから うれしいです」 「いや 俺だって好きじゃないものははっきり言うからね ミウちゃんとは味の好みが合うのかも」 ほらまたうれしい言葉をくれる 「柊さんのお口にあってよかったです」 こういうの なんか照れちゃって慣れない ふっと顔を上げると サンドイッチのソースが柊さんの口の端に少しついているのが見えた ふふ かわいい 「柊さん」呼びかけて自分の口の端を指して 「ついてますよ」と言ってあげる すると 柊さんは目をつぶって私のほうに顔を近づけて 「とって」と言った 「え?」 「今日俺誕生日だし ね?」 と言われたら 仕方ない ティッシュを出してそっとふき取ってあげる ちょっとだけ触れる柊さんの唇 柔らかい… 気づくといつの間にか目を開けた柊さんがじっと私を見ている 「…!ご ごめんなさい 取れました」さっと手を引っ込めた 「ミウちゃん…」 私の名前を呼んだだけなのに 柊さんの声にはドキッとしてしまう 動揺を隠すために コーヒーを両手で包んで飲む 「これ食べたら 戻ろっか?」そんな私をおかしそうに眺めながら柊さんが言った そうだ 午後は柊さんの買い物に付き合う約束してた 「はい」 高原を下りる車内は 少し眠くなってしまう 緊張も少しとけてきたせいかも 柊さんは車の中に流れる曲に合わせて鼻歌を歌っている 車って部屋と一緒 その人の香りがする 狭い空間でその人の香りに包まれてしまう 「はい 到着」いつの間にか 目的のお店の近くについたみたい 眠ってしまわなくてよかった 車を降りてお店に向かうと 雑貨屋さんだった 「かわいい ここですか?」 「うん ここさ 前来た時女の子ばっかりで なんかじろじろ見られちゃってさ」 あ それじろじろ見られてたの 柊さんがかっこいいからだと思います 「なんか男一人じゃ入りづらくて ミウちゃんと一緒ならいいかなって」ごめんねと顔の前で手を合わせる柊さん はは…また目立ってしまいますね(汗 私をダシに目的のお店にこれた柊さんは上機嫌でカップや加湿器 いい香りのリップクリームまで いろいろ見て回ってる 私と一緒だから 店員さんやほかの女の子たちにちらちら見られてるなんて思いもしないほど 夢中だ ほんと こういうとこ かわいい 思わずニコニコしながら柊さんを見てしまう 私は保護者かな? 女子並みに迷って 小一時間ショッピングを楽しんだ柊さん 何となく 女子の買い物に付き合う彼氏の気持ちがわかってしまった そのあと 洋服屋さんも見て いい時間になったので 柊さんお気に入りのレストランへ 向かった そこは 思ってたよりカジュアルなレストランで 少しにぎやかなくらいの お店だった 「いらっしゃいませ」 「予約してたハシマです」 ウエイターさんは端末を確認した後 「ハシマ様2名様ですね? お待ちしておりました どうぞ」 と言って案内してくれる カジュアルで静かすぎない店内だけど おしゃれな内装と音楽が柊さんぽい 背もたれがパーテーションのようになったちょっとプライベートスペース感のある席に案内される 「お食事の前に お飲み物のご用意はいかがなさいますか?」 そう聞かれて  「そうだな ミウちゃんハーブティーとか大丈夫?」 と柊さんが私に尋ねてくる 「はい 大丈夫です」 「じゃ このおすすめのハーブティーをアイスで」 「かしこまりました」そういってウエイターさんは下がっていく 「ごめんなさい 車じゃなかったらお酒飲めたのに」 「いいの せっかくミウちゃんといるんだから お酒に酔いたく無しね」 ほんとに 柊さんのセリフにはいちいちときめかされてしまう たった一日でこんなに沼にはまってしまうなんて 恐ろしいと感じる しかも 自分の誕生日なのにレストランの手配とかも全部柊さんにさせちゃってるし 「俺の好みで勝手に決めちゃったから逆にごめん」とか言ってくれる柊さんのスペックに驚かされてしまう
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