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夢を、見た。
あったかい日差しと柔らかな草の匂いに包まれて、わたしは草むらに寝転んでいる。顔をあげると近くに川が流れていて、赤い花が揺れているのが見える。
その河原の砂利のところ。見慣れた、でも待ち遠しかったその姿を見つけた。
あれはきっと!
わたしはたまらず駆け寄って、お母さんを呼ぶ。
わたしの声に、お母さんが控えめに手を振る。
一年前と変わらないままのお母さん。
驚くでもなく、ただ柔らかく、ただ優しく、わたしを抱きあげる。
「お父さん、ちゃんとやれてる?」
ちゃんとしてるよ!
「泣いてない?」
…たまに、隣の部屋から何か聞こえるけど、聞こえないフリしてあげてる。
「あなたにも寂しい思いさせちゃったかな。」
もちろん、寂しかったよ。でも、お父さんの方がずっと寂しいから。
「そうよね。だから、あなたはもう少しだけ頑張って。ふふ、こうしてお話できるなんて、本当に夢のようだわ。」
わたしも、嬉しい。
「じゃあ、またね。本当のお迎えの時は、私が必ず来るからね。」
そう言ってわたしを下ろすと、頭をひと撫で。
うん、またね。でも、できるだけ、もっと、ずっと後で。
目を覚ますと、病院にいた。
「目を覚ました!?良かった…。先生!うちの子が目を開けました!」
すぐに先生が来て、わたしの体に触れてくる。体がうまく動かないし、背中がチクチクする。
…どうやら点滴をされているみたい。体に無理やり水を流し込まれているみたいで気持ち悪い。
「発見が早くて良かったですね。いや、危なかった。」
先生が言う。
「ありがとうございました。」
お父さんが深々と頭を下げる。
「念のため、このまま今日はウチに泊まってもらって様子見ますが、もう大丈夫だと思いますよ。」
「はい、よろしくお願いします。」
もう一度深々とおじぎ。そしてわたしの顔をのぞきこんで微笑んだ。
「今日は病院にお泊まりだって。明日、迎えに来るから、良い子でね。大人しくしてるんだよ。」
そう言って、頭を撫でた。
次の日。
約束通りお父さんが迎えに来て、やっとおうちに帰る。病院は色んな臭いがして嫌だったけど、具合悪いって顔してたら皆からちやほやされてちょっと嬉しかった。
「昨日は、ありがとうね。」
帰ってきて早々、お父さんはお母さんの写真が飾ってある棚の前に座って手を合わせていた。
「貴女が夢枕に立って教えてくれなかったら、多分、間に合わなかった。ユリはダメって言われてたの、すっかり忘れてたんだ。花粉が体に付いてたみたいでさ。多分舐めたんだろうってお医者さんに言われたよ。」
話してるうちにだんだん涙声になるお父さん。そう言えば、一昨日棚に飾ってあった大きな白い花が無くなっている。あれ、わたしには毒だったんだ…。
「また、大切な家族を失うところだった。本当に、本当に…ありがとう。」
初めて見るお父さんの涙は、わたしのためのものだった。
そんなに大事に思ってくれてたんだと、改めて思う。
「吐き散らして痙攣してるの見た時は血の気が引いたよ…。君まで居なくなったら、この先、一生、泣いて暮らすことになるよ。」
わたしを見て、お父さんが言う。涙で濡れた手で頭を撫でられる。
わたしもね、お母さんに会ったんだよ。
きっと、お母さんが助けてくれたんだ。まだ来ちゃダメって言われたの。だから、もう少し、よろしくね、お父さん。
わたしは頭を擦り付けて目一杯の感謝を込めて甘えた声を出す。
「にゃん♪」
お父さんは、また泣いてしまった。
写真の中のお母さんだけ、にこにこと笑っていた。
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