お迎えの約束

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夕暮れ、公園。 遊んでたお友達も次々にそれぞれのお母さんやお兄さんが迎えに来て、だんだんいなくなる。 見上げた空の夕焼けがやけに赤くて、胸がぎゅっとなる。 最後のお友達を見送って、わたしは砂場にしゃがみこむ。 砂場には誰かが作った、そこそこの大きさのお山がある。トンネルは掘りかけのまま、ほったらかしにされている。前に近所の男の子が、トンネルは開通させてから穴をどんどん広げて、お山が崩れるギリギリを楽しむんだって言ってたっけ。 前までは、このくらいの時間になるとお母さんが迎えに来てくれた。 「やっぱりここにいた。そろそろ帰っておいで~。」 って、柔らかな笑顔で。 お母さんが帰ってこなくなって、もう一年。ガンっていう病気だった。でもそれが見つかった時は笑顔で「今はね、治せる病気なんだって。お母さん、頑張って元気になるからね!」って言ってくれた。それから少しの間は苦しそうな顔をすることが多くなって。それでも季節が変わる頃にはすっかり元気な、ううん、前よりもっと優しいお母さんになった。でも、代わりにお父さんがつらそうな顔をするようになったことに、わたしは気付いてなかったんだ。 検査だって言ってから一週間で、お母さんは箱になって帰ってきた。お父さんは、グスグス鼻を鳴らしてたけど、泣かなかった。 「お母さんはね、もう治らないかもって言われてたんだ。このままずっと苦しい顔でいたくない、君には笑顔の私を覚えてて欲しいからって…。君と楽しく過ごす時間を大事にしたんだよ。」 お母さんが前より優しくなったのは。 お父さんの様子が変わったのは。 わたしは、どうしようもなく無力なんだと思って、わんわん泣いた。 お父さんが泣かないから、わたしがその分まで泣かなくちゃと思った。だから、恥ずかしくなかった。 それから一年。わたしは十二歳の誕生日を迎えた。もうだいぶ大人。ずいぶん大人。 えいやとお山を踏みつけて、ぐしゃりとつぶして穴を埋める。プルプルと脚をふるって砂を払う。 もうそろそろ夕焼けもおしまい。 水場で砂を洗い流す。「砂遊びの後はよーく手を洗うのよ。」とは、お母さんの教え。 わたしは誰もいなくなった公園を出る。 もうわたしにお迎えは来ないから。
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