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•••いつかの2人•••
まったくなんでこんなことになったんだろう。
川沿いの遊歩道、おまけみたいに設置されたベンチでぐちゃぐちゃの思考を巡らせる。
……だめだ。
寒い。
何も考えられない。
今季一番の寒波だと、夕方のニュースでアナウンサーがしきりに言った。
「今日、鍋しましょうよ。」
「いいね。」
それで2人で買い出しに行った。
北風がビュウビュウ吹いて、徒歩5分のスーパーに着いた時にはお互いの姿を見て笑いが止まらなかった。真っ赤な鼻にボサボサの髪。
冷蔵庫にネギと豆腐はあったね、とか、とりのひき肉買っておだんごにしよう、とか言いながら売り場を回る。
蓮くんが当たり前みたいに2パックもしいたけをカゴに入れた。俺が前に鍋に入っているしいたけを好きだと言ったからだ。
「しいたけだらけになっちゃうよ。」
「いいじゃん。俺も好きだし。」
それにしても多いよ。とか、きのこは体にいいからいいの、とか。
そうしてまた寒い寒いと言いながら帰って、2人でキッチンに立って鍋の準備をした。
「あ、ポン酢買うの忘れた。」
蓮くんが言った。なんとも絶望的な声色だ。
「……レモンあったよね?作ろうか。」
母さんが元気だった頃、冬になるとキッチンに呼ばれて一緒に作った。
「楓、レモン絞ってちょうだい。」
「はぁい。」
自家製のポン酢はレモンの爽やかな香りがする。
「蓮くん、レモン係。」
「はーい。」
特番の音楽番組を見ながら鍋をつついた。
たっぷりいれたしいたけは肉厚でぷりぷりで、2人で讃えながら食べた。
食後。俺が食器を洗い、蓮くんがコーヒーを入れる準備をする。
お湯が沸くのを待っている間、蓮くんは俺にまとわりついてぎゅうぎゅう抱きしめたり、それでは飽き足らず頭のてっぺんとか、首筋とかにたくさんキスをした。
俺がいよいよたまらなくなって、早く食器洗いを終わらせて手を拭いて蓮くんに抱きつきたいと思っていたら、ヤカンがシュンシュンと鳴って、お湯が沸いて、蓮くんが火を止めて……
「楓。」
やけに真剣な表情で蓮くんが俺の名前を口にした。
「楓、一緒に暮らそうよ。」
どうしてすぐに頷けなかったんだろう。
一瞬の俺の戸惑いに、蓮くんはひどく傷ついた顔をして、すぐにそれを悟られないように微笑んでくれた。
「なーんて、冗談!ほら、コーヒー飲みましょう。」
それから何を話したかはあまり覚えていなくて、とにかくいたたまれなくなって、逃げるように飛び出してきてしまって……今に、至る。
めちゃくちゃ寒い。
今季一番どころか、今世紀最強寒波だ。個人的に。
……帰ろうかな。
……どこに?
……。
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