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「おーい楓ー!こっちこっちー」 「シマ!」 4月も半ばを過ぎた頃。 今年もシマと花見をする約束をした。 お互いどんなに忙しくしていても、この行事だけは毎年欠かさない。 「晴れて良かったな。」 「うん。」 俺たちの他にも川縁にはちらほらと花見客がいて、来週には散ってしまうであろう桜を惜しむように眺めている。また次の春までしばしのお別れだ。 平日の昼下がりは小さな子供を連れた家族やカップルがほとんど。静かで穏やかな時間が流れている。 「ご無沙汰してます。」 にこやかに言ったのは蓮くんだ。 「こちらこそ。久しぶり。」 シマもにこにこと返す。 この2人はなんだか妙に気が合うみたいで俺はそのことがとても嬉しい。 「そっち、ちゃんと広げてください。」 「いやいやそっち側引っ張ればいいだろ。」 2人が大きなブルーシートを仲良く敷いているのを横目にトートバッグから飲み物を取り出していると、向こうから元気な声が聞こえた。 「おじちゃーん!」 「ソウタ!」 すっかり一人前の小学生になっても、土手を駆け降りてくる様子は相変わらず天使みたいに可愛い。 「楓くん、これお母さんがみんなで食べてって。唐揚げとか。」 「わぁ、ありがとう。」 「シマくんこんにちは。」 「お!ソウタまたでっかくなったなー!何年生んなった?」 「5年生だよ。」 「まじか。俺も歳取るはずだわ。」 「あはは。それ会うたび言ってる。」 「それくらい言わせてくれよ。あれ?学校は?」 「創立記念日。そんなことよりシマくんまたおじちゃんと喧嘩してたんでしょう。」 「してねぇよ。」 「いい加減諦めたら?僕はもう次の恋してるよ。初恋は実らないって言うじゃない。」 「ソウタ……お前ほんとに5年生?」 シマとソウタがきゃっきゃと戯れているので加わろうとすると、大きな手のひらにうしろから両耳を塞がれてしまった。 「楓は混ざんなくていーの。」 ? なんだかわからないけれど蓮くんの手のひらがあたたかくて心地良くて、くすぐったい。 「ほら、いちゃいちゃ終わり。食おーぜ。桜もち、持ってきてやったから。」 「つぶつぶのやつ?」 「おう。もちろん。」 「やった!」 「シマさん、今年こそレシピ教えて下さい。」 「イヤだね。企業秘密。」 「シマくん、そういうとこだって…。」 4月の日差し、ポットのコーヒーと緑茶。ソウタが持ってきてくれた唐揚げ。時々触れる蓮くんの手。全部が心をぽかぽかにする。 あたたかい。 幸せって、あったかいんだ。
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