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「サプライズなんて、慣れないことするもんじゃないね。」
「……サプライズ失敗ってやつですか?」
「うん。笑っちゃうだろ。」
「俺は……嬉しいけどな。サプライズがどうとかじゃなくて、自分のために何かしようって考えてくれたってことでしょう。」
「そうかな。」
「うん。」
「……ありがと。」
「どういたしまして……ってのも変かな。」
不器用な言い方を好もしく思った。
「……一緒に食べる?」
勝手に口が動くなんてこと、フィクションの世界だけだと思っていたんだけど。
「えっ。」
「えっ。」
目の前の青年が驚いた顔をしている。でも、言った自分が1番驚いているんだ。
「ケーキ。ここの、めちゃくちゃ美味いんだ。俺の知っている限りでは世界一。俺、小さい頃からこの店のケーキが好きで……その、パティシエさんっていうのかな、職人さんてすごいよな、まじ神……」
何言ってんだろ俺。途中からめちゃくちゃ早口になってしまった。顔が熱い。
「ちょっと……すみません、」
青年はそう言って、走り去ってしまった。
膝に乗せたケーキの箱がズシリと重い。
気が付けば、いつのまにかネコもいなくなっていた。
いきなり知らない男に、こんな夜に。公園のベンチで一緒にケーキ食べようって誘われるとか。チープなホラーにもならない。
ほんと、なにやってんだろ。
厄日だな。
いや、あの青年こそ、厄日だ。
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