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驚いて声も出せないでいる俺に、ハァハァと息を弾ませ、チョコレート色のふわふわした髪から覗く額に汗まで滲ませて言ったのは、さっきの青年だった。 「むこうのコンビニで、フォーク……っ、貰えないかなって……」 「それで、走って行ってくれたの??」 へへ。と、彼は笑った。 「知り合いがバイトしてるんです。はい、これ。コーヒーとカフェラテ、どっちが良いですか?」 「カフェラテ……。」 はい。と手渡してくれながら、彼はケーキの箱を覗き込む。 「美味そう。」 「うん。……おいしいんだ。すごく。」 「でもすみません、フォーク切らしてたみたいで。これなんですよ。」 そう言って彼は少しイタズラっぽく笑う。 「箸?」 「うん。いいですか?」 「勿論。……ありがとう。」 「どーいたしまして。」 それから2人でケーキを食べた。 一口口に運ぶと、自然と笑みが溢れる。 「この上に乗っかってるクルクルしてるやつ、俺、これが好きなんだ。」 「そーなんですか?」 「うん。この店のは特に。しっとりフワフワしててさ。口に入れると溶ける感じ?はー幸せ。すごいよなーこういうの作れるって。職人技っていうのかな。魔法使いみたいだよな。尊敬するよ。」 ケーキのこととなると、どうしても饒舌になってしまう。 「……コポー。」 「ん?」 「チョコレート•コポー、って、いうんですよ。」 「コポー?」 「うん。」 「薄く伸ばしたチョコレートを削って作るんです。」 「へぇ。物知りだね。」 「まぁ。」 照れてるみたいだ。かわいいな。 「チョコレート•コポーか。いいな。一つ賢くなった。」 2人でぺろりと平らげ、満たされた気持ちで冷たいカフェオレを飲む。 「…一緒に食べてくれてありがとう、ええと……ごめん、名前、聞いてなかったな。」 「藤巻です。藤巻蓮。」 「いろいろありがとう、藤巻くん。」 「どういたしまして……ふふっ、今日、このやりとり何回目ですかね。」 「ほんとだ。はははっ」 「よかった、笑ってくれて。やっぱり、ケーキは笑顔で食べたいですよね。」 「うん。」 ほんの数時間前、もう二度と笑えないって思ってたのに。やっぱりケーキってすごい。 「それじゃ、俺、帰ります。さよーなら、佐藤さん。」 「うん、ありがとう。さよなら。」 あれ、俺名前教えたっけ。 遠くから大きくブンブンと手を振る彼に応えて手を振って見送った。
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