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スーパーの袋をぶら下げて、来た道を戻らず遠回りして帰る。これも運動不足解消のためだ。
川沿いの道をぷらぷらと歩く。やけに明るいな、と顔を上げるとぽっかりと月が浮かんでいた。
秋の気配を纏った川風が頬を撫でるのが心地良い。
このまま帰るには勿体無いような夜だ。
予定よりももうひとつ先の橋まで足を伸ばすことにする。
パーカのポケットに手を差し込みスマホを操作して音楽のボリュームを上げた。ロックバンドのボーカルの透明な歌声を両耳でダイレクトに受け止める。
「ふっるい歌聞いてんな。」
いつかあいつにそう笑われたことがあった。
確かにこの曲がリリースされたのは10年も前だけれど、いいじゃないか、良い歌は何年経っても良い歌だ。
と、その時の俺は言い返すこともできず、ただギクシャクと笑うだけだった。
土手に腰を下ろして月をぼんやりと眺める。満月……ではないな、少し欠けている。
大切だとか好きだとか言われたことも無かった。
それでも着信があれば嬉しかったし、どんな夜中に呼び出されても抱きしめられれば愛されていると錯覚してしまったのだ。
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