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「お、真鯛のいいのがあるなぁ。カルパッチョにでもするか」
薫はそう言いながら、刺身用の柵を幾つかカゴに入れる。
生のバジルやクリームチーズ、しっかりとお尻まで赤くなったトマトも放り込んだ。
「ここのスーパー、野菜と魚は割と新しくていいんだ。けど肉はな、海里のとこのがいい」
「そうなんですね」
眞白は、なんだか友達が褒められたようで嬉しくなる。
確かにビーフシチューの肉は、柔らかくて美味しかった。
「おっと、茄子も」
薫は一度通り過ぎた所を逆戻りし、茄子もカゴに入れた。
「今の時期の茄子、最高だからな。後で眞白にも食わせてやるからな」
眞白は薫の優しい声になんだか泣きそうになって来た。
数日前に、ほんの弾みで店に転がり込んできたよく分からない奴に、なんでこんなにしてくれるんだろう。
「薫さん…」
眞白はどう気持ちを伝えていいのか分からなくなる。
「ん、どした?あ、アイスだろ?忘れてないよ」
薫はニヤリと笑う。
「俺、カゴ持ちます」
「何言ってんだよ、そんなヒョロい腕して」
「いいんです!俺のほうが若いし!薫さんだってずっと料理して疲れてるでしょう?」
薫が少し驚いた顔で眞白をみた。
「どした?じゃあカート持ってくるか?」
「あ、はい」
眞白はつい感情を出してしまい、恥ずかしくなる。
カートを取りに行きながら薄々感じていた自分の気持ちが、確信に変わるのが分かった。
好きなんだ…薫さんのことが…。
この気持ちをどう扱っていいのか、眞白には分からなかった。
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