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夜の『orange』の客は、昼間と随分違う顔ぶれだった。 酒の種類はビールとハイボール、あとは安いワインくらいだったが、美味い肴に釣られてか30代から40代くらいの男女が次々と訪れる。 滞在時間か長いので、19時頃にはカウンターまで客でいっぱいになり、立ち飲みしたり薫が出したパイプ椅子で飲んでいる客もいた。 「薫さーん、こっちにもカルパッチョ頂戴」 奥の4番テーブルで女性グループの1人が手を上げる。 「おっけー」 馴染みの客のようで、薫はカウンターから顔を出して答える。 眞白は、奥でビールを注いだり、簡単なブルスケッタを盛り付けたりしていたが、段々と雰囲気にも慣れてきて客席でオーダーを取り始めた。 「あれえ?しずくちゃん辞めたんだ。キミ名前は?」 しずくちゃんって誰だろう、と思いながら「眞白といいます」と女性グループの1人と会話を交わす。 「ましろ?やだぁ!可愛い!」 隣にいた別の女性が抱きついてきた。 随分赤い顔をしている。 「眞白ちゃーん、お姉さんと一緒に呑もうよー」 「あー、ごめんなさい。仕事中なんで」 眞白は柔らかくその手を振りほどく。 「ギャハハ…マミコ、振られたねえ」 みんな楽しそうに酔っている。 日頃の鬱憤を晴らしているのだろう。 都築のセクハラに比べたら、女性からされるこのくらいのことは、なんてことはなかった。 「眞白、大丈夫か?」 キッチンに戻ると薫がカルパッチョを盛り付けながら心配そうに聞いてきた。 「全然!楽しいですよ」 眞白はニコリと笑う。 薫は苦笑しながら、無理すんなよ、と言った。 親心なんだろう。 薫の優しさが身に染みる。 けれど眞白は大人の世界に少し触れたようでいい気分だった。
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