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「とりあえず今日のところは、見て覚えて」 薫にメニューを渡される。 『ランチメニュー』 ビーフシチュー、ハンバーグ、オムライス、エビフライの4種。 眞白は急に空腹を感じて、ゴクリと生唾を呑む。 「なんだ、腹減ってんのか?」 「あ…はい…」 正直に言うと、薫は、少し笑う。 「カウンター座ってちょっと待ってろ」 「あの、お金あんまりなくて」 「いいよ、賄いだ」 そう言って薫は冷蔵庫から材料を取り出している。 「良かったじゃん、眞白ちゃん。こいつはね、愛想は無いけど腕はあるの」 隣に座ると宮本がそう言った。 「宮本!お前いい加減仕事戻れ。 しまいにクビになるぞ」 フライパンを熱しながら薫が言う。 「お生憎さまー。クビになる予定はありませーん」 そう言いながら宮本は、名刺を取り出して眞白に渡してきた。 『TGI電機グループ 営業課長 宮本真斗』 と書いてある。 「え?!TGIってめちゃくちゃ大手じゃないですか!少数精鋭でなかなか入れないっていう…」 眞白も就活の時に、記念に受けた会社だ。もちろん1次で落とされた。 「それも、管理職だなんてすごい」 眞白は、ほおーっと溜息をつく。 「いいねえ!そういうのもっと頂戴」 宮本は嬉しそうにニコニコしている。 「お幾つなんですか?」 「お幾つに見えますか?」 「えっと…」 この手の質問は苦手だ。 男性の場合、あまりに若く言いすぎるのも良くない。 …30代半ばだろうか… 「36。若く見えるけど、もうオッサン」 薫がそう言いながら、眞白の前にホカホカのピラフを置いてくれた。 「どうぞ」 そう言って口の端だけで笑う。 「わあ、美味しそう!いただきます!」 宮本の年齢のことは、正直どうでも良かったので、眞白はさっそくスプーンを持つ。 「眞白ちゃーん、オジサン置いてきぼりにしないでよ」 隣で宮本が泣きそうな声を出した。 薫は、宮本の前にあった食べ終えた皿を片付け「マジでもう行けば」と言う。 「わかったよおー、眞白ちゃんまたね」 「ふぉい」 口いっぱいにピラフを頬張っていたので、おかしな声が出た。 それを聞いて薫がまた少し笑っている。 会計を済ませて、宮本は帰って行った。
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