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すっかり暗くなった道を二人で歩く。
「引越しの準備、どうだ?」
薫が聞いてきた。
「はい、そんなに荷物もないので」
「そうか」
外灯の明かりに照らされた薫の横顔に見とれてしまった。
大勢の客が店に訪れるのは、料理だけでなく、薫自身の魅力もあるのではないかと思う。
「来週の月曜日にしようか」
「あ、引越しですか」
「うん。宮本も有休取ってくれたみたいだし。なんか海里も手伝うってこないだ会った時、張り切ってたぞ」
「わー、助かる」
みんなの優しさが身に染みる。
「いい人達ですね 」
眞白が言うと「まあ、それはさ」と薫が真面目な顔をした。
「眞白が頑張ってるからだろ」 そう言ってニコリと笑ってくれた。
「そうかな…」
なんとなく気恥しい。
「ああ。こっちも負けてらんねぇなって思うよ」
薫に褒められて、眞白は暗いのをいいことにニヤニヤしてしまった。
「あ、ここです。ありがとうございました」
アパートの前で足を止め、ぺこりと頭を下げた。
「いやいや、じゃあまた明日もよろしく。おやすみ」
最後のおやすみが、気のせいかとても優しく聞こえた。
「おやすみなさい」
踵を返して帰ってゆく薫の後ろ姿を、眞白は見えなくなるまで見つめていた。
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