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「眞白は?何歳だ?」
「あ、23です。ライクマートの紳士服売り場で働いてたんですけど…」
「へえ、大手だな」
どうして辞めたのか、と薫は聞かなかった。
「まあ、色々あるだろうな、そういう人間の坩堝みたいなとこにいたら」
「はい…」
眞白は、口ごもる。
嫌なことを思い出してしまった。
――――
高校を卒業して、ライクマートに入社した。
ライクマートは、九州に本社があり、全国展開している大手スーパーマーケットで、最近では百貨店並の品揃えで、若いファミリー層を中心に人気のスーパーだ。
眞白は、最初、食料品売り場に配属にされ、パートやアルバイトの人達と上手にコミュニケーションをとりながら、楽しく働いていた。
ところが、昨年紳士服売り場に配属になった途端、直属の上司である都築からのセクハラが始まった。
都築は、眞白が食料品売り場にいるころから目をつけていたらしく、紳士服売り場に必要な人材だとか適当なことを言い、眞白の移動を希望したらしい。
毎日のようにバックヤードでお尻を撫でられ、耳元で「ホテルに行こう」と囁かれる。
売り場のみんなでの飲み会の帰りに、とうとうホテルに連れ込まれそうになってしまい、眞白は都築の足を蹴飛ばして逃げ、結局辞めることになってしまった。
―――
「どうだ?美味いか?」
眞白が少し考えこんでいると、薫が顔を覗き込んできた。
「あ!はい、めちゃくちゃ美味いです!」
そう言って眞白は、最後のひと口をスプーンでかき集め、頬張った。
もう、昔のことだ。どうでもいいや。
美味しいピラフを食べて、お腹いっぱいになった眞白は、そう思いながら「ご馳走さまでした」と手を合わせた。
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