1

4/5
前へ
/70ページ
次へ
お腹が満たされたので、余裕が出来た眞白は、お皿を下げながら店内を観察する。 カウンターに椅子が4つ。上には、小さな観葉植物が飾ってある。 ドアの横にレジがあり、 レジの前の窓際と奥、反対側に二つの計四つのテーブル席。 手前から、1から4と小さく番号が振ってあった。 壁に『衛生管理責任者 須藤 薫』と書いた貼り紙がある。 …須藤さん、て言うんだ。 眞白は、薫に好感を持った。 無愛想だけれど、きっと本当は優しいはず。 じゃないと、あんなに美味しい食事は作れない。 「そろそろランチタイムですか?」 時計を見ると1 1時半を差している。 「そうだな」 薫も時計を見た。 「何か、賄い分お手伝いします」 眞白は言った。 「ああ、じゃあとりあえずこれ付けて」 エプロンを渡された。 生成色のシンプルなエプロン。胸元に小さくオレンジ色で『S』と刺繍が入っている。 「どなたかの物ですか?」 「うん、前に働いてた奴が置いていった」 「そうなんですね。お借りします」 眞白は、エプロンを付けるとさっそく洗い場に溜まっていた食器や鍋を洗い始めた。 カラカラン〜 「ちぃーす。やってる?」 なんだか随分と馴れ馴れしい感じで、男が入ってきた。 茶髪をセンター分けにして、シャツのボタンを三つほど開け、胸元に金のネックレスが光っている。 眞白とそんなに歳は変わらないだろう。 「おう、海里。いらっしゃい」 薫が奥から声をかけた。 「いらっしゃいませ!」 眞白も声をかける。 「あれ?新入りさん?」 「はい。今日からお世話になります。よろしくお願いします」 「へえー」 海里と呼ばれた男はカウンターに座り、ジロジロと眞白を見た。 「男の子、だよね?」 「は?はい」 戸惑いながら水とお絞りをカウンターに置く。 確かに眞白は色が白く、子供の頃はよく女の子に間違えられたけれど、さすがに最近は無い。 「いーの?薫さん、男の子雇って。しかも住み込みで?」 海里は、何か言いたそうにしている。 「お前、うるさい。何食うんだ?」 「あ、えーと、オムライス」 「了解」 薫が奥に入ったので、眞白は気になって小さな声で海里に聞いた。 「あの。何かあるんですか?」 「そりゃあ、おまえ…」 海里は、カウンターから身を乗り出して、眞白の耳元で言った。 「薫さん、ゲイだよ?」 「え……?」 眞白は、固まった。 カラカラン〜 「こんにちはぁ〜」 固まっていると扉が開き、ワイワイと年配の女性客が三人で入ってきた。 「いらっしゃいませー!」 薫が声をかける。 眞白も慌てて「いらっしゃいませ」と声を出す。 「眞白!水とお絞り出して。オーダー取れるか?レジのところに伝票あるから」 「あ、はい!」 眞白は気持ちを切り替え、トレイに水とお絞りを乗せ、オーダーを取りに行く。 頭の中では、このままここに居て大丈夫なのか?と自問自答がグルグルと回っていた…
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

159人が本棚に入れています
本棚に追加