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その後も、何組かの客が続いて入ってきた。
眞白は、ファミレス時代を思い出しながら、オーダーを取り薫に伝える。
出来上がったランチをテーブルに運んで行く。
その繰り返しをしている内に、あっという間に時間が過ぎてしまった。
帰りがけに海里に「気をつけろよ」と耳打ちされ、その言葉が暫く頭の中で反響していたけれど、バタバタとする内に忘れてしまっていた。
―――
「はぁー、お疲れ様。眞白、ありがとな。疲れただろ」
薫は、ランチタイムを終えて店をCLOSEした。
「はい、久しぶりだったんで。少し」
眞白は、カウンターの椅子に腰かけて、休憩する。
しばらくすると良い香りがしてきた。
「コーヒー飲むか?」
「あ、はい!いただきます」
薫は、カップを二つ持ってきて、眞白の隣に腰かけた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
フワリ…と良い香りが鼻を擽る。
ゆっくりと口の中に含むと、程よい苦味と酸味で眞白は癒された。
「あのさ」
薫が話しだした。
「はい」
「海里の奴が何言ったか知らねぇけど」
ドキリ、と眞白はまた海里の言葉を思い出した。
「俺、ちゃんと相手がいるから。眞白のこと襲ったりしねぇよ」
「え?あ、はい…」
妙に真面目に言われて眞白は、また薫に好感を持つ。
「ほら、最初に会っただろ?宮本。アイツが今の相手だからさ」
そう言って薫は、唇を少し上げて笑う。
「そう、なんですね」
眞白は、少しホッする。
「けどまあ、ゲイなんて気色わりぃって言うなら、もう明日からは来なくていいよ」
そう言って眞白の前に封筒を差し出した。
「え?これ…」
「今日の分。大して入ってないけどな」
薫は、そう言ってコーヒーを飲み干し、立ち上がった。
「ありがとうございます!」
眞白は、封筒をありがたく受け取って頭を下げた。
「できたら」
「はい」
「俺は、明日からでも来て欲しいけど。で、住むとこに困ってんなら、上の部屋、余ってるから使ってもいいよ」
「あ、はい!えと…」
眞白は、直感で薫のことを信頼できる、と思った。
「よろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げると、薫は「そうか」と言って初めて嬉しそうに笑ってくれた。
眞白は、その笑顔に胸がキュッと締め付けられてしまった…
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