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「じゃあ、また」 「うん、またね」 『orange』の前まで送ってくれた海里は、少し心配そうな顔をした。 「言うの?今日のこと」 「え…」 どうしようか、正直迷った。 薫を傷つけることになる。 「やめたほうがいいと思う、俺。こういうことは二人のことだから。俺ら関係ないじゃん」 「うん…そうだね」 考えてみればそうだ。 海里が眞白の腕をひいてギュッと抱きしめた。 「ちょっ…海里」 夕方でまだ人目もある。 「ごめん」 海里は、そう言って帰っていった。 表のドアが閉まっていたので、裏から入る。 裏口の鍵は渡して貰っていた。 「ただいまー」 店は真っ暗で誰もいなかった。 「どっか行ったのかな…」 独り言を言いながら靴を脱いで二階に上がる。 薫の部屋のドアが少し開いていて、薫は眠っているようだった。 コンコン…と開いているドアをノックする。 そっと部屋に入った。 薫の寝顔を見ると眞白の中に急に色んな想いがこみ上げてくる。 どうしようもなく好きだった。 静かに寝息を立てる薫の髪にそっと触れる。 その後、額に触れ頬に触れると、薫は目を閉じたままで眞白の手を掴んだ。 「!」 眞白は、驚いて手を引こうとしたが、キュッとまた掴まれる。 「おかえり」 薫は薄らと目を開けて眞白を見た。 「あ…ご、ごめんなさい!勝手に入って…」 「いや、いいよ」 薫は、眞白の手を離して起き上がった。 「なんか疲れてんのかなぁ?最近寝てばっか、俺」 そう言ってふぁぁ…と欠伸をした。 「そうかもしれないですね」 眞白は、薫をじっと見つめた。 「飯食った?」 「あ、はい。一応」 「そっか」 薫はベッドから出て部屋を出ていく。 「俺まだだから付き合ってよ。ひとり飯寂しい」 「嘘ばっかり。寂しくなんかないでしょ?」 眞白が笑うと「ほんとだって」と薫も笑う。 「眞白が来てから、ひとりが寂しいんだ」 薫は振り返って眞白を見た。 電気のついていない部屋で見る薫は、本当に寂しそうにみえた。
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