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『アルバイト募集 住み込みOK』
佐藤眞白には、その文字が本当に神の紙のように見えた。
勤めていた大型スーパーを辞めて1ヶ月。
このままでは、家賃も払えない。
実家に帰るしかないか、と思っていた矢先だった。
レストランなら賄いもあるかもしれない。
住む場所と食べる物。
両方一度に手に入るなんて、こんな夢のような話が!
と眞白はその小さな洋食レストランの扉を開けた。
『レストランorange』。
「いらっしゃいませ」
愛想の無い声の主は、短めの茶髪。レイヤーウルフ。
コック服は着ているが、一瞬何処かの組の人かと見間違う程の強面だった。
180はあろう身長と広い肩幅。
カウンターの中から眞白をじろりと見た。
「あ、あの……表の貼り紙見たんですが」
眞白が怖々言うと、店の奥のほうからもう1人、男が出てきた。
「わあ!働いてくれる子?可愛いじゃんか?なあ、薫」
今度はえらく愛想の良い人だった。
「宮本、お前トイレでちゃんと手、洗ったのか?」
カウンターの中の薫と呼ばれた男が睨む。
「洗ったに決まってんだろ?人聞きの悪い!」
そう言ってその宮本と呼ばれた男は眞白の方に近づいてきた。スーツ姿で緩いパーマヘアを後ろに撫でつけている。身長は175くらいだろうか。
眞白より10センチほど高そうだ。
「うわー、ちょっと悔しいくらいに可愛いなあ。名前なんて言うの?」
「あ…佐藤眞白と言います」
「え?マシロ?さとうまっしろ?」
宮本が言う。
するとカウンターの中にいた薫が、一瞬口の端だけを上げて笑った。
「なんか、甘そうな名前だな」
薫は眞白を見る。
思っていたよりも優しい顔だった。
「あの、俺、接客業していました。
学生時代にはファミレスでアルバイトしたこともあります。
住む所無くなりそうでホントに困っているんです。出来たら雇って頂けないでしょうか?!」
眞白は、どうにでもなれ、と一気にまくし立てた。
「いいよ」
カウンターの中から声がした。
「え?いいんですか?」
眞白は顔をあげる。
「そのレジの横から中に入って来て」
(やった、やった、やったあ!)
眞白は、その場で万歳したかった。
「よ、よろしくお願いします!」
「良かったねえ、眞白ちゃん」
宮本がカウンターの椅子に腰かけて、ニコニコ笑っている。
この人が店の人ならもっと良かったけど…。この際、贅沢は言っていられない、と眞白は、カウンターの中で薫にぺこりと頭を下げた。
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