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「けもの様は、今これを創くんだと思って、追いかけています」
見せてくれたのは、筆箱サイズの木箱に入った、人の形に切られた和紙だった。その和紙には俺には読めない文字が書かれてある。
「けもの様にお供えをする時に、一緒にこの人形にも感謝をしてください。
創くんのお供えをする当番の一年が終われば、この人形の役目も終わります」
俺たちは深くお礼を行ってお寺を後にした。
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家に帰ると、爺ちゃん、婆ちゃんは俺をみた途端、わあわあ泣いて「おかえり!おかえり!」と喜んでくれた。
それからは、毎日、けもの様のお供えを欠かさない。
俺の為に山を駆け回っているだろう人形にも、ありがとうと感謝する。
人形は木箱に入れて紐をきつく結ばれ、誰も触ることができないようになっているが、たまにコトコトと小さく揺れている気がする時がある。
そんな時、人形の俺は、けもの様に咬みつかれたりしているんじゃないかと思ったりもする。
中を開けて、傷ついてはいないか確かめてみたくなるが、開けてはならない。
俺の脇腹には、けもの様に咬みつかれた時の、歯形の傷跡が残った。
それでも、こっちの世界へ帰ってこれたのは、本当に幸運だった。
でも……その傷を見る度に、あのけもの様の笑っている姿を思い出し、今でもゾッとする。
-おわり-
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