けもの様2

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転がる、と言うより、飛び出た岩にぶつかりながら、崖を落ちていく。 ドンッ!ドンッ!という衝撃が体に響いた。 転落の最後に大きくバウンドする。 最後に頭を強く打って、激痛が走った。 目の前が暗くなる。 「う、う…」 意識はあるが、動けない……。 崖の下は、幅が3メートルくらいの綺麗な浅い川が流れていた。 俺の体の痛みとは逆に、サラサラと心地よい川の流れる音が聞こえる。 でも、体を起こす事ができない。 痛すぎる。苦しすぎる。 俺はそのままグッタリと川のそばで倒れていた。 その様子を、けもの様は向こう岸から「ひひ……」と笑いながら、座って見ている。 あぁ、もう殺されてもいいや。 このまま逃げ回っているのも疲れた。 そう思って目を閉じた。 が。 川のせせらぎに混ざって何か聞こえる。 お経? それと…… 親父と母さんの声? 「創…」 「創…」 俺は目を開けた。 「親父…母さん?」 ……そこにはいない。 でも、聞こえた。 声が聞こえた! 何とか体をゆっくり起こす。 あまりの痛みに呻いた。 でも、 今なら耐えられる。 お経の聞こえてくる方に行こう。 けもの様は、笑っていなかった。 ただ、こちらをずっと見ている。 落ちている太めの枝を杖代わりに、川べりを、足を引きずりながら歩いた。 時には大きな岩や、急な斜面を登ったり降りたりするのに時間がかかっても、俺はお経が聞こえてくる方に向かった。 お経は、川を下った方から聴こえる。 けもの様は、俺からだいぶ離れた後ろからついて来ていた。 俺を追いかけていた時とは違って、元気がないように見える。
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