ラムネがいい

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ラムネがいい

暑い真夏の世界。身体が浮かぶほどの暑い圧気が私には耐えられなかった。 家に帰るためには駅を経由した。電車ならきっと涼しい。ホームに立って首から滴り落ちる汗を拭いながら期待する。 線路とぶつかり心臓の鼓動のような音を立て、人々を運ぶ存在。電車。 その大きな扉は、目の前で横に等速しながら開く。 私は列に流されながら、その波に体を任せる。 電車の中は、誰でも一度は目にしたことがある金属的で未来的な内装だった。 側面の窓は外の景色を広げ、走りながらでもその景色は堪能できる。 (ほこり)と人の匂いが大きく混じりあっては、また窓から消える。 駅に着くたび、その匂いは消えたり現れる。 それでも電車は一方向に前進し続ける。 私の降りる駅は遠く、少し時間があった。 首にかかるヘッドホンを耳に移動して、頭で支える。 スマートフォンを片手で操作しながら、お気に入りの音楽を流す。 私はそっと電車の入り口部分にもたれかかってそっと窓を見た。 テレビのようにいや映画のように、流れ続ける景色。 山なりに沿った緑の海。 真四角な建物が地面から突き出る街 格子状(こうしじょう)でフラットな地面、水面が浮かび、山を反射する。 グラデーションのように変化していく情景は、非現実的だった。 耳を澄ますと、流れるのはJ‐POPだった。 まるで、真夏の公園の真ん中で清涼飲料水を一気に飲み干しているような気分になる。 景色と対話して、私は頭に大きな物語を作り上げる。 少年が真夏の公園で目一杯に走りだして、口を大きく開けて笑う。 頭には麦わら帽子と両手でしっかりと掴んだ虫取り網。 カブトムシと鬼ごっこしている。 これが夏だと、そう感じた。 胸の中に沸き立つ夏への期待は暑さのせいじゃない。 嫌じゃないこの暑さ。 今日はきっとラムネがいい
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