溺愛するな、溺愛されろ。

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学園内の靴箱で上靴に履き替えて、集団の後ろを歩いて行く。 わたしは中学まででは市立のところに通っていた。 この学園では友達がいる人がほとんどだから、ひとりで歩いている自分が浮いていないか心配になる。 いいなぁ、友達…… なんて考えながらとぼとぼ俯いて歩いていると、前にいた集団がいなくなっていた。 え…!? ここ、どこ…? 学園案内を見るのを忘れていたのを思い出した。 あたりを見渡すも、周りに人はひとりもおらず、目に涙が浮かんできた。 その場にしゃがみ、 「どうしよう…」 と呟いたそのとき。 人の走り音が聞こえて、咄嗟に顔を上げた。 そこに立っていたのは、茶髪の…なんていうか、失礼だけど、不良、みたいなガラの悪そうな男の人。 「うわっ!」 茶髪の男の人はわたしが顔を上げたことに凄く驚いた。 だ、誰…? わたしがそう思っていると、茶髪の男の人は横を向いて、顔を手で隠した。 「え、可愛…」 何か言ったような気がしたけど、すぐに顔を戻して手を差し伸べてくれたので、気にしないことにした。 男の人の手を握って立ち上がると、また顔を隠した男の人。 どうしたんだろう…? 不思議に思いながらも 「あ、ありがとうございます」 とお礼を言った。 「い、いや、ええんやで。」 関西弁…? 人生初、生で関西弁を聞いたことに内心喜んだ。 「俺、2年の北尾取裕史って言うねん。宜しくな」 「はっ、はい! わたしは燕昇司璃愛ですっ。よろしくお願いします」 「璃愛ちゃんって読んでもええか?」 「はい!わたしは北尾取先輩って呼びますね!」 2年生なんだ… 大人っぽいから、もっと上とか、先生なんだと思ってた… …ん? 2年生? てことは…入学式の場所、分かるかも! 訊ねようとすると、北尾取先輩が 「え?“先輩”…?」 と訊いてきた。 「え?そうですけど…?」 なんて答えると、少し考えこむように頭を抱えた。 「うーん…ならしゃあないか…あ、1年生ってとは、今から入学式やんか!連れて行ってあげるから、はよ行くで!」 北尾取先輩に腕を掴まれ、走り出した。 物凄いスピードで走っていた北尾取先輩に着いていけず、止まってしまった。 北尾取先輩、足速い…! わたしは中学では早い方だったけど、高校だと足も手も出なくなるんだ… 膝に手を置いて、呼吸を整えていると、体が宙に浮いた。 と思ったら。 「はい。これでええやろ?」 北尾取先輩の顔が目の前にあって。 察するに、北尾取先輩にお姫様抱っこをされている状態。 え、えぇ…!? 多分わたし、顔が真っ赤になってると思う。 それからあっという間に体育館に連れて行ってもらい、入学式に間に合った。 北尾取先輩に後でお礼を言いに行こう… なんて考えているわたしは、北尾取先輩がお姫様抱っこをしたとき、わたしよりも北尾取先輩の方が顔が真っ赤だったことに気が付いていなかった。
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