きっかけ

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きっかけ

「元の場所に捨てて来い」 来生春一は、これ以上ないくらいの厳しい顔をして言う。 「ウチはマンションなんだぞ。これ以上扶養家族なんか増やせるわけがない」 「それはわかってるけど、でもだからって放ってはおけねぇじゃねぇか」 それでも夏樹は必死になって訴える。 「あんな路地裏で傷だらけで倒れてたんだ。あのままだったらきっと死んじまってた」 「自然の摂理だ。そんなことウチが気にする必要はない」 そこへ冬依が救急箱を持って現れた。 冬依は呆れたように、 「ねぇ兄さんたち。ふたりとも、まるで犬猫拾ったみたいに話してるけど、夏兄が拾ってきたのは、あくまでもだからね」 視線をむけた先のソファーにはひとりの男が横たわっている。 白いシャツとシンプルなパンツの軽装で、おまけに荷物も何も持っていない。 しかも着ているシャツはボタンが飛んで、そこから見える肌は血と(あざ)だらけとくる。 きっと襲われて、身ぐるみ剥がされてしまったのだろう。 気の毒だとは思うが、春一は、そんなトラブルに巻き込まれるような男を、この家に入れたいとは思わなかった。
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