きっかけ

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春一は、 「……わかった」 深く息を吐く。 納得は出来ないが、秋哉や冬依の顔を見る限り、自分はやっぱり苛立っているのだろう。 だが、これが譲れる最終ラインだと、 「ただし、動けるようになるまでだ。回復したらすぐに出て行ってもらうからな」 それだけ言い残すと、春一は自室のドアを音高く閉めて閉じこもった。 きっと弟たちは、呆れた顔で見送っていることだろう。 「すみ……、ません」 黙って聞いていた男が、弱々しい声を発した。 「迷惑をかけて……」 「いいってことよー!」 男の肩を力任せに叩こうとする秋哉を、夏樹がすんでの所で止める。 男はもう一度、 「……すみません」 頭を下げると、 「ボクはアンリ。晏里(あんり)義和(よしかず)といいます」 「なんだ、日本人だったのか?」 アンリの名前を聞いて、秋哉は目を丸くする。 「この辺で見かけねー顔だし、外国人かと思ったぜ」 なるほど。 秋哉の言う通り、アンリは全体的に色素が薄い。 肌も白く目も茶色だ。 髪も染めたのではない天然の茶髪。 「せっかく外国から来たのに、日本で散々な目にあったんじゃ気の毒だと思ってさ」 ニカッと屈託なく笑う秋哉に、アンリも釣られたように微笑んだ。 夏樹はそんなふたりに小さく息をついて、 「春はあんなだけど心配はいらねぇよ。困ってるやつを放っておけるタイプじゃない。今は安静にして、体を治すことだけ考えな」
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