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理由
その夜、アンリはこっそり玄関のドアを開けた。
そのまま暗闇の中へ体を滑らせようとすると、
「出ていくのか?」
春一が廊下の壁にもたれかかるようにして立っている。
アンリは再び玄関の内側に戻ってくると、
「お礼も言わずに、……すみません」
決まり悪そうに頭を下げた。
「まぁ出ていけと言ったのは俺だからな」
春一はゆらりと身を起こした。
「止めやしない。だが――」
そのまま、つかつかと近づくと、
「俺も一緒に行く」
「――は?」
玄関で何食わぬ顔で靴をはき始める春一に、アンリは目を丸くする。
「どうして、あなたが」
「弟たちがお前のことを心配している。黙って出て行かせたら、後で俺が追い出したと責められるに決まってるんだ。だけど俺は、あんたにこの家にいて欲しくない」
ツラツラと息継ぎなしでしゃべる春一に、アンリは口を挟めない。
春一は、
「だから俺が、お前に付いて行くことにした」
「は?」
理由を説明されても、やはり同じ反応しかアンリは返せない。
しかし春一は、
「もたもたしてると、弟たちが起きてくるぞ」
言って、自ら外に出てしまう。
「ちょ、ちょっと待って」
アンリも慌てて追いかけた。
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