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そんなことを春一が考えていると、
「ふふ……、ハルはいい人だね」
耳元に囁くアンリ。
「――!」
思わず肩から跳ねてしまい、
「ふふ」
また笑われた。
一瞬、この場に放り出して帰ってやろうかと考えた。
終電間際の駅につくと、アンリは迷わずコインロッカーに向かう。
操作して開けたロッカーには、革製のボストンバッグが入っていた。
なるほど。
襲われて全部盗られてしまう前に、ロッカーに預けてあったのかと感心していると、アンリはカバンの中から携帯電話を取りだし、2,3の操作を済ませただけで、再びロッカーに戻して鍵を閉めてしまった。
「どこかに連絡したんじゃないのか?」
折り返しの連絡を待たなくてもいいのかの意味で聞いたのだが、
「連絡? してないよ」
アンリは不思議そうな顔で答える。
「僕には連絡する必要がないからね」
春一は首を傾げて、
「全財産盗られたんだろう。家族にひとことくらい言ってもいいんじゃないか」
「親も姉もいない。死んだんだ」
「……そうか」
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