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降ってわいたような不運で、天涯孤独になってしまう人間は、案外まれにいる。
ましてやその後、そんな不運が帳消しになるほどの幸運が与えられることなんて、ほとんどない。
そんなことがあれば、まさに奇跡だ。
春一は幸運にも、そんな奇跡を与えられたひとりだから、
「どうしたんだい、変な顔をして」
怪訝に尋ねてくるアンリに、
「なんでもない」
春一は首を振った。
顔色ひとつ変えることなく肉親の死を語れるアンリの傷が、痛いほど理解できた。
春一は自分の携帯を取り出しながら、
「なぁ。念のため、俺と番号を交換しておかないか」
「必要ない」
即座に拒絶されて、さすがにムッとする。
でもそう言われた以上、それ以上は踏み込めず、春一は、せっかく出した携帯を再び自分のポケットにしまう。
アンリは、人懐っこい笑みを浮かべながらも、その実、誰も信用していない。
来た早々襲われて、身ぐるみ剥がされた街で出会った春一を、信用しろというのも無理な話かもしれないが、でもそれでも、怪我の手当てをした恩ぐらい感じてくれてもいいだろうと、チッと舌打ちをする。
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