第一話 ヤクザの家の家政夫

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にしたって、一体どうすればいいのか。 これは普通に入っていいのか? ヤクザの屋敷になんて入ったことないしな……。 門の前で悩んでいれば、門が開いて一人の男性が出てきた。 二十代後半くらいだろうか。 オールバックの髪にスーツ姿で整った顔立ちをしている。 「お前、誰だ?」 「あ、えーっと、その。俺、今日からここで働くことになってるんですけど……」 その言葉と俺の荷物から何かを察したのか男性は「ちょっと待ってろ」と言って屋敷の中に入っていく。 暫くして男性は戻ってきた。 「今日からここで働く家政夫か?」 「はい、そうです。今日から働かせてもらう泉正義です」 「わかった。入ってくれ」 俺がそう言えば、男性は屋敷に入れてくれた。 玄関もやっぱり俺の家より広い。 「俺は夜月組の若頭で海原蓮弥だ」 「海原さんですね!よろしくお願いします」 勢いよく頭を下げてお辞儀をすれば、海原さんは苦笑気味な顔になった。 何か変なことしただろうか。 「あの、何か変なことしましたか?」 「いや、その爪の垢を煎じて飲ませたい奴がいるんだよ」 そんな大したことしてないけどな……。 よっぽど礼儀がなってない人でもいるのだろうか。 そんなことを考えていれば、夜月おじさんがいるという部屋まで通された。 「オヤジ、海原です。連れてきました」 「入れ」 海原さんが襖を開ければ、そこには着物を着た夜月おじさんがいた。 最後に会ったのは十年以上前のため歳はとっているものの、雰囲気は変わっていない。 「久しぶりだな、正義。そこに座れ」 「はい。お久しぶりです」 挨拶をしてから促された場所に正座する。 夜月おじさんは父さんの従兄弟にあたるためか、どこか父さんに似ている。 特に目元なんかそっくりだ。 「まず、ここに住んで働いていることは他言無用だ。そして、空いてる部屋で生活してもらう。場所は蓮弥に教えてもらえ」 「わかりました!」 返事は大きく人に迷惑にならないように。 そうしているだけなのに夜月おじさんはピシリと固まった。 こういう微妙な反応をされるのは海原さんに続き二回目だ。 夜月おじさんはハッとして咳払いをする。 「とりあえず、今日の夕食から頼めるか?他のことは明日からでいい」 「はい。食材はどうすればいいですか?」 「冷蔵庫にある物を勝手に使ってくれ。詳しいことは蓮弥、頼む」 海原さんが頭を下げる。 話が終わり、部屋を出ると海原さんに部屋まで案内された。 和室で最低限の家具だけ置いてある部屋だが、縁側と繋がっていて新鮮だ。 「荷物の片付けが終わったら玄関から一番近い部屋に来てくれ」 「わかりました」 俺がそう返せば、海原さんは部屋から出ていく。 早く終わらせてそこに行かなければ。 腕まくりをし、俺は早速片付けを始めた。
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