第一話 ヤクザの家の家政夫

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第一話 ヤクザの家の家政夫

「うわ、本当にドラマみたいだ……」 目の前には大きな和風建築の屋敷と門。 その光景に俺は息を呑む。 ついにこの日がやって来た。 泉正義、大学三年生。 この春からヤクザの家で家政夫をすることになりました! ーー 事の発端は一か月前に遡る。 俺は大家族の長男で母さんも父さんも仕事で忙しいことから弟や妹の面倒を見ながら家事をこなしている。 その日の夜も夕飯の片付けをしつつ、一番下の弟を寝かしつけていた。 「正義、ちょっといいかい?」 「父さん。お帰り、どうかした?」 仕事から帰ってきた父が寝室にやって来た。 父は休みの日は兄弟たちと一緒に遊んでいるが平日は忙しそうなので珍しい。 呼ばれた俺は父の部屋に行き、向かい合うようにして床に座った。 「確か、正義はこの間バイトをやめたよな?」 「うん」 高校生の頃から家族に少しでも楽がしてもらえればと始めたバイトだった。 大学に通いながらでもできると思ったが、通学時間に思った以上に時間がかかり、それどころではなかった。 それがどうしたのだろうか。 「実は、正義に割のいいバイトがあるんだが」 「割のいいバイト?」 「月給こんなもんなんだな」 父に言われた金額は破格だった。 衝撃で固まってしまう。 一体どんなバイトなのだろうか。 「父さん、どんな仕事なんだ?詐欺、じゃないよな?」 「ああ。ただ、訳ありというか、住込みになりそうなんだ。そのかわり、大学の近くにはなるんだが」 住込みだと兄弟たちに迷惑がかかってしまう。 でも、大学から近くてこの値段。 悩んでいると、父さんがバイトと内容を口にした。 「それが、ヤクザの家の家政夫なんだ」 ……ヤクザの家の家政夫? 漫画かなんかの題名か? そんな俺の思考を読んだのか、父さんが首を振る。 「漫画の題名じゃないぞ。親戚の夜月さん、わかるか?」 「夜月おじさん?」 夜月おじさんは俺が小さい頃によく遊んでくれた人だ。 その夜月おじさんがどうしたのだろうか。 「夜月さんは組長で、仕事が仕事だから信頼できる人にしか頼めないということでうちに仕事が回ってきたんだ」 「え!?夜月おじさんが組長!?それはどういう、」 「どういうも何も、そのままの意味だよ。それで、どうする?俺は正義が嫌なら断るし、どっちでもいいぞ」 組長、ヤクザ……とはいえ、夜月おじさんはお世話になった人だ。 それに、この値段だったらもう少し兄弟たちにも美味しい物を食べさせてやれるだろう。 「わかった。この仕事、やるよ」 こうして俺は、ヤクザの家の家政夫として働くことなった。
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