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あぜんとしている彼の前に、神さまが姿をあらわしました。
「少しだけ高くとべるカエルよ、残念だが、お迎えのときがきた」
「え?」
彼はおどろきました。でもすぐに、死ぬときが近づくと、神さまの姿が見えるのだ、という母親から教わったことを思いだしたのでした。
「ああ、そうか。そうだったんだ……」
いつかはそのときが来るとわかっているカエルたちは、じたばたしないのです。
「すまないね。さっきの若いカエルがとぶのを、遅らせるくらいのことはできたのだが……」
神さまにしてみれば、がんばってきたカエルに、残酷なものを見せてしまった、という思いがあるのでしょう。
「いえ」
少しだけ高くとべるカエルは、ぶるんぶるんと首を横にふります。「いえ、とんでもない。最後にすごいものを見ることができて、ぼくは……ぼくは……」
彼は声がつまってそれ以上は話せなくなりました。
「つらいのかね?」
「つらい? うーん、ちょっぴり……いえ、とっても妬ましくて、悲しくて、だれにぶつけたらいいかわからないくらい怒りたくて、それから、それから……」
彼は、ははは、と笑いました。「でも、ぼくはいま、たぶん、満足しているんです」
「そうか」
神さまはほほえむと、カエルがのれるように、すっと手のひらをさしだしました。
神さまの手のひらは、白く、ぼうっと光っています。
〈了〉
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