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空知 1
「新市街から来た方ですか?」
そいつはカウンターの中から俺に微笑みかけた。
髪は水色。砂糖菓子のような色の肩までの髪。触ったら存外さらさらとしているのかもしれない。
触りたいのだろうかと考えて困惑する。
ジンバックを一口飲んで、また困惑する。
なんでこんな甘いものを注文したのだろう。
「ご質問があれば、どうぞ」
微笑。アルカイック。こいつは瞳も水色なんだなと思う。でも今、揺れた感じは茶色っぽくも見えた。
ホログラムみたいだ。アルコールじゃないものに酔わせられている感覚。
「男、女、どっち?」
ぶしつけな質問だと分かっていた。
ポリティカリー・コレクトネス。
他人を傷つけず、傷つけられないように生きるには、近寄りすぎないように線を引くべき。
こいつは整った顔形をしている。切れ長の目元には色の無いまつげ。白い肌に細い肩。白いシャツと黒いギャルソンエプロン。
ほっそりした指先。左の手首に銀色のブレスレット。
絶妙だ。どちらにも見えないし、どちらにも見える。
薄い身体に伸びやかな骨格。
「わたしですか?」
計算したような首の傾げ方。
「わたしはどちらでもないですよ」
よく尋ねられるのだろうか。慣れた口調でそいつは言った。
「失敗作のセクサロイドなので、どちらにもなれなかったんです」
甘い飲み物を、また口に運ぶ。
「この曲は?」
「ワルツ・フォー・デビー」
「女のために書かれた曲?」
「間違いでは、ないです」
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