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一 友達のおもひで
まだ小学校に上がる前、わたしにはとても仲のよい友達が一人いました。
名前は〝サヨちゃん〟といって、歳はわたしと同じくらい。赤色のワンピースを着た、栗毛の髪を三つ編みに結わえた可愛らしい女の子でした。
まだ小さな頃のことだったので記憶は曖昧なのですが、初めてサヨちゃんに会ったのは保育園から帰ってきて一人で遊んでいる時、やはりおとなりの家だったように思います。
当時、わたしの実家のとなりには、空き家になっている洋館が一棟建っていました。
いつ造られたものなのかはわかりませんが、煉瓦と白壁でできたたいそう立派なお屋敷で、古い空き家といっても廃墟のような感じではなく、文化財とかに指定されていてもおかしくないような佇まいだったと記憶しています。
その裏手とか、さらにそのとなりとか、たぶん、わたしと同様、近所に住んでいたのでしょう。サヨちゃんとはいつもその洋館の広い庭で遊んでいました。
わたしの家との境には垣根が巡らしてあったのですが、小さな子どもなら簡単に潜り抜けられるくらいの隙間が根元に空いていて、そこから自由に出入りすることができたのです。
裏手の敷地境もそんな感じだったので、サヨちゃんもそこから入って来ていたんだと思います。
空き家なので、いくら勝手に入って遊んでいても怒られる心配はありません。子どもにとってはまさに絶好の遊び場です。
「ねえねえ、サヨちゃん。お姫さまごっこしようよ」
「うん。いいよ」
小さかったわたし達にはなんだか洋館がお城のようにも思えて、よく自分達のことをそのお城に住むお姫さまに見立てたりなんかもして遊びました。
長らく放置されていた庭は雑草が生い茂って荒れ放題でしたが、それゆえに野の花が咲き乱れ、わたしとサヨちゃんはその花を摘んでお互いの髪に飾ったり、まだ花輪とかは作れませんでしたが花束にして送り合ったりと、まさに古城の庭のようなロケーションでお姫さま気分に浸ることができました。
他にも鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、おままごとをしたり……その洋館でわたしはサヨちゃんとそれはそれは楽しい一時を過ごしたものです。
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