彼女のココロ、彼氏のココロ

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「城之崎君、差し当たって私から1つ、お願いがある」 「なんですか」 「玲、って呼んでくれない?」  僕はきょとんとした。 「高橋のことは呼び捨てだろ?」  そっぽを向く。  これは、ひょっとして。 「玲さん」  また口元を隠される前に、僕は玲さんの両手首をつかんだ。 「嫉妬、ですか?」  真っ赤な横顔が図星だと語っている。 「こっち向いてくださいよ」  急に、玲さんがぐっ、と近づいた。  天女が舞い降りたかのような神々しい穏やかな笑みを浮かべて。 「……玲」  さん、まで言おうとして唇をふさがれた。  柔らかい唇の感触。  包み込むように、焦らすように。  お互いを確かめ合うような長いキス。    やっと玲さんが顔を離した。頬が上気している。 「ふふ、呼び捨てにしたね」 「ずるくないですか、こんなの」  玲さんはいたずらっ子のようににやり、と笑った。  新しく見せてくれた表情は、いつもの完璧なそれより格段に愛おしくて。  僕は玲さんを抱きしめた。 「樹里、好きだ」  肩に埋めた顔から、声が聞こえる。 「ふふ、呼び捨てだ」 「樹里も言って」  少しすねた声。 「僕も……玲が好きだ。愛してる」  今はお互いの気持ちだけで、じゅうぶん。  僕らは僕らなりのペースで、お互いのことを知っていく。たとえば、唇の柔らかさとか。  僕らは見つめ合い、もう一回キスをした。
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