彼氏の事情

1/5
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

彼氏の事情

 彼女から返信が来ない。  朝6時。  ベッドでごろごろしていた僕は、アラームを1秒で止めた。通知はたくさん来るのに肝心の人から来ない。いい加減起きることにした。    顔を丁寧に洗って、右、左と首を振り今日の肌チェック。  うん、どこから見てもイケメンだ。具体的に言うとかわいい系国民的アイドルの部類に入る。  この顔のおかげでわりとモテてきた。真面目に大学の講義は受けてるし、先生方の覚えめでたく友人も多い。なんなら元カノたちとだって仲はいい。実家はわりと裕福で大学生の割にいいマンションに住めている。  順風満帆な人生。  彼女がめったに連絡くれないことを除けば。  化粧水をつけながら「アレクサ、テレビつけて」とつぶやく。パンをトーストし、サラダを作ってインスタにアップした。瞬く間に「いいね!」がつく。 「おはよ!素敵な朝ごはん!樹里(じゅり)君の顔も見たいなー!」なんてコメントが流れていく。  前ならサービスしてたけど、自撮りも割と時間を食うのでスルー。今の僕にはやることがある。 「昨日発生した立て篭もり事件は、警察の突入で鎮圧されました。犯人が怪我を負ったものの、人質は全員無事で――」  テレビは国会議員の収賄容疑、国際フォーラムのテロ対策、(ちまた)で話題の音楽、ファッションの情報を流していく。横目で見ながら朝食をとった。  冷凍庫からすっかり固まったチャーハンを取り出して、保冷剤と一緒に袋に詰める。  早めに家を出て、クロスバイクを漕ぎ出す。  いい天気だ。青い空の下、川沿いの道を進む。水面が太陽の光できらめく。  だけどモヤモヤする。  いつになったら(れい)さんから返信が来るのか。一昨日から連日送ってるのに。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!