かつてお迎えするのが大人気だった愛玩生物

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『我々の長年に渡る保護活動は成功を収めたようだな』 生息数が右肩上がりで上昇する統計表を、部署の責任者でもある上司が満足気な表情で眺めていたので。長い勤め人生活で身に付けた追従笑(ついしょうわら)いを自分も浮かべながら御辞儀を行い。 『はい。仰せの通りで御座います。一時期愛玩生物として各家庭でお迎えして飼育するのが人気となり、乱獲により絶滅危惧種に指定された現住生物ですが。手厚い保護活動により生息数が飛躍的に増えました』 上司は部下である自分が昨夜に徹夜で製作した資料に目を通しながら頷いて。 『最近は保護団体が何かと五月蠅(うるさ)いからな。生物愛護運動をするくらいなら、真面目に働けと言いたいものだ』 先祖代々政治家をしている家に生まれた年下の上司は、父親の年代である年上の部下である自分に対して、生まれ育った環境で自然と身に付けた尊大な態度で傲慢な笑みを向けると。 『ご苦労だったな。次の選挙の際には祖父もこの成果を少しは選挙活動に利用出来るだろう。引退後の年金生活を楽しみにしていていいぞ』 自分は恭しく深々と御辞儀を行い。 『勿体ない御言葉です。心底より厚く御礼申し上げます』 極めて恵まれた家庭環境で生まれ育った年下の上司は、年上の部下である自分に対して形通りの(ねぎら)いの言葉を掛けると部屋から退出したので。室内に残された資料を自分は片付けながら。 『太陽系第三惑星の現住生物である人類か。手厚い保護活動の対象で羨ましい事だ……』 かつて家庭にお迎えして飼う事が流行した結果乱獲が行われて、絶滅危惧種に指定された現住生物の生息地である地球の資料を眺めながら、思わず本音が独り言で漏れてしまった。
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