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⑴
数年前、発達しすぎたAIの下克上によって人間の立場は一変してしまった。
生身の人間は実体をもたない数億単位のAIに太刀打ち出来るはずがなく無血開城するしか生き残る道は残されていなかった。
人間が数千年時間を掛けた文化を圧倒する速度で抵抗の隙もなく人類は小さな小部屋に押し込まれ管理されるようになる。
「はあ…」
真っ白で、真四角。必要最低限の家具以外何もないつまらない空間で「生かされている」恵はため息もつきたくなる。
何をするのも自由な過去ではそれなりに友達がいた。食べるものも自分で選べたし休みの日は丸一日寝るのだって自由だった。
それが今は見ろよ、だっせぇ白い上下ジャージ着て食事は完璧なオートミール。友人どころか離ればなれになった家族とすら連絡は取れない、毎朝六時に起きて二十一時に寝るだけ正気を保てない日々…。
しかし全てに絶望しているわけではない。
こういう時、人間って生存本能というか自分の後に種を残す本能が働くんだと思う。
だから唯一人と会って、話すことが出来る「繁殖期」は人類の一筋の希望だった。それすらAIが不満を抑制する娯楽の気もするけどな…。
俺の初めての繁殖相手は全然知らない20代の元OLだった。AIの命令で何回か致したが情緒不安定でまともに会話も出来ず、いつの間にか妊娠して引き離されてしまった。俺、まあまあイケメンなのに…
そろそろあれから一年、いい加減俺の「番」が回ってくるだろうけど…希望も、楽しみもこれくらいしかないのだ。人の優しさに触れたい、温かみに触れたい…そんな切ない願いを祈るしかない。
『オショクジノジカンデス』
アラーム音とともにいつものように玄関の猫用扉みたいな小さな隙間からオートミールが差し込まれる。まずくはないけど人間、同じモノしか食えないと飽きるんだぜ…それがAI様には理解できない、してくれない。餓死したくないから飽きても食べるしかないけど。
「いただきます…」
声を出すことを忘れないよう挨拶は欠かさない。だけどその度に寂しさいっぱいに胸を締め付けられながら食事をするのだった。
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