27人が本棚に入れています
本棚に追加
⑴
夏の匂いが微かに残る、静かな夜…とあるマンションの窓にはまだ明かりが残っていた。
「はあ…」
ため息の1つも出るさ。
ピカピカのフローリングの上に雑多に積まれた段ボールの山…そのくぼみに苦労して組んだ愛用のベッドの上で生活するのに最近、慣れてきたんだから。
父さんの仕事が変わるのが変な時期だったせいで夏休み突入ギリギリで引っ越しを始め、なんとか最低限の生活スペースを確保して早二週間、母さんは早く片付けろってうるさい。押し入れはがらんどうで新品のカーテンも綺麗に畳んだままだけどさ、もうそれでも良くない~~~?ベッドの上で、ゴロ~ン。
prrrr prrrr
片付けをやらない理由を探してちんたらしていると不意にスマホの着信音が鳴る。
まだ大体段ボールに入ってるせいか、やけに反響音が鳴り響いて、深夜のマンションのご近所迷惑になるんじゃないかって神経質になってしまう。慌ててポケットに入ったままのスマホを手に取り、スピーカーに急ぎ耳を当てた。
「よ、元気?」
「おっ!おお、ぼちぼちだな。そっちはどうだサイトー。」
サイトーはいわゆるオタク友達。たまたまゲームの話をしたらお互い好きなゲームだったってきっかけで仲良くなった、今では僕にとって「数少ない普通の友達」。
「平和も平和よ。なんつったって疫病神のお前が引っ越ししてくれたからな~~。ったく、お前があのゲーム好きじゃなかったら親友にはならなかっただろうな、なんたって『男食いのアメ』と言ったらーー」
「しーっ!声がでけえ!」
最初のコメントを投稿しよう!